2023/03/31 【レポート】[魚講 後期05]さかな食べてますか?魚食普及の現況

第9回目の魚講では、兵庫県明石市にて「明石の魚 嵜~SAKI~」という魚料理屋さんを展開されていらっしゃる山嵜清張さまに「さかな食べてますか?魚食普及の現況」というテーマで講演していただきました。

まずは、山嵜さまの経歴についてお話していただきました。山嵜さまは明石浦漁協協同組合職員として22年間、その後兵庫県漁業協同組合連合会職員として5年間勤務され、兵庫、特に明石の水産業に大きく貢献されました。現在は先ほどもご紹介した「明石の魚 嵜~SAKI~」にて明石の魚の美味しさを伝えるほか、魚のさばき方を教える体験教室や漁業や環境、食についての講話など全国各地で様々な魚文化の普及活動に取り組んでおられます。また、その結果として2014年に水産庁から「お魚かたりべ」として任命され、まさに“魚のプロ”としてご活躍されています。

続いて、山嵜さまが最も専門とされる“明石のさかな”について、「なぜ明石のさかなが美味しいのか?」についてご説明していただきました。山嵜さまはその理由として「良い漁場がある」「消費地が近い」「魚の扱いが上手である」の3つを挙げておられました。1つ目については、明石海峡が生み出す激しい潮流により良い運動ができる環境となり、また砂地の良いエサ場ができることによって、明石の漁場に生息するさかなが“美食家のアスリート” (良い表現ですね!)になっていると仰っていました。2つ目については、新鮮な魚を明石藩主に収めていた歴史があることや、現在では港のすぐ近くに“魚の棚商店街”があることなどの例を挙げて、明石は過去から現在に亘って消費地が漁場からすぐ近いという良い環境にあると仰っていました。3つ目については、他の漁場に比べると漁獲量が少ない分、1匹1匹のさかなをより丁寧に扱うようになっていると仰っていました。それにより、明石の“スピード第一”の特別な競りや活け越し・神経締め等の鮮度維持技術の開発が盛んに行われ、明石のさかなを高鮮度な状態で提供できるようになっているとのことです。

続いて、今話題となっている「日本人の魚離れ」について、山嵜さまの持論をご説明していただきました。山嵜さまは主に「PR不足」と「ウソ」が原因であると考えていらっしゃるとのことです。前者については、イベント企画等が上手くできないため、魚の魅力を宣伝することが必須な今の時代の流れについて行けていない水産関係者が多いと仰っていました。後者については、ありえない魚の写真が掲載されているスーパーの広告やある魚を別の魚と偽って提供された体験談などを例に挙げながら、“魚のウソ”の現状について詳しく教えていただきました。この2つの現状は、魚を取り扱う人達が“魚についての知識をより深めることでプロになる”ということをしてこなかった結果である、と厳しい意見を述べておられました。そして、これらの原因によって「日本人の魚に対する口が痩せている」、つまり美味しい魚と出会えないために日本人は良い魚から離れてしまっているのが現状ですが、決して魚そのものから離れているわけではないと考えられるため、「出会いの場」や「正しい知識」を提供していくことで魚離れ問題が解決されていくはずである、と仰っていました。

最後に、今回の講演を受講した私の感想です。今回、山嵜さまの講演を聞き、魚食文化の面白さ・奥深さについて再認識することができたと同時に、その厳しい現状についても知ることができました。特に「日本人の魚離れ」の現状について、今回挙げられたようなウソの魚の体験は私にもありますし、また、大学の友人等に話を聞くと「魚を購入することは滅多にない」と答える人が大半であり、このことからも特に「若者の魚離れ」を実感しています。そういった魚離れ問題に対して、今回の講演の中で上述した内容に加えて、「魚の魅力を見出す」や「魚の価値を上げる努力をする」といった解決のヒントを共有していただきました。また、一般の個人でも実践できることとして、「リアルな体験を積むことで自身の魚レベルを上げる」や「そこで得た知識や経験を他人に伝える」といったことがあるとご教示いただきました。この2つの内容について、私がこれまでも大切にしてきた考えであったため、今後も自信を持って実践していきたいと思います。その1つとして、また必ず「明石の魚 嵜~SAKI~」に伺わせていただきます。

この記事を書いたライター
神戸大学 大学院理学研究科 生物学専攻 M2