2023/01/10 【レポート】[魚講 後期03]エシカル生産・エシカル消費

第7回目の魚講では、公立はこだて未来大学 システム情報学部の教授である和田雅昭さまに、「エシカル生産・エシカル消費」というテーマで講演していただきました。


まずは、和田さまが専門とされているマリンITについて説明していただきました。現在の海の状況を知ることは効率的かつ持続可能な水産業を実現するために必要不可欠です。このことを可能にするべく、ITを活用して海洋資源や海洋状態を“可視化する”ことに取り組む分野がマリンITです。和田さまは、特に生産者である漁師の方々に海の現状を知ってもらうことが大切であると考え、主に漁業にマリンITを活用するということに取り組まれています。今回、実際に活用した例を2つ挙げて、そこから分かったことについて説明していただきました。

1つ目は函館のいか釣漁業への活用です。この漁法は世界で最も自動化された漁法であると言われており、漁獲場所や深度、量を全てデータ化することが可能となっています。和田さまがこれらのデータを集めて解析したところ、いか釣漁場において、2018年から2021年にかけて資源量が大幅に減少していることが分かりました。また、カーボンニュートラルの観点より、燃料消費量のデータを合わせた解析を行った結果、現在のいか釣漁業が漁獲量に対する燃料効率の悪い漁業となっていることが明らかになりました。

2つ目は函館の定置網漁業への活用です。いか釣漁業と同様のデータを取集して解析を行った結果、いか釣漁業よりもかなり燃料効率が良いことが分かりました。ただし、高い漁獲選択性を持ついか釣漁業と比較して資源圧が高いといったデメリットがある、あるいは、場所によって結果が異なる可能性が考えられる等、定置網漁業が最も優れている漁法であるとは断言できないとのことです。今回の結果を踏まえた今後のマリンITの発展により、場所や季節ごとに最適な漁法が分かる未来が期待されます。また、定置網漁業では前述したデータの解析に加えて、データの活用も実施されています。その例が「マグロアラート」です。定置網漁業にて小型のクロマグロが漁獲された場合、資源保護の観点から海に返す義務があり、この作業が漁獲効率を下げているという現状となっています。これを解決するため、魚群探知機を使用して集めたデータを基に定置網に入った魚種を判別するというシステムを構築し、クロマグロが検出された場合に漁師の方々に知らせる「マグロアラート」が開発され、事前に対応することが可能となりました。

これら漁業に活用するマリンITについて、技術的には十分に発展しているため、次のステップとして社会的価値を創造することや現場の意向を得ることが課題であると主張されていました。前者に関しては、消費者がエシカル消費(消費者それぞれが各自にとっての社会的課題の解決を考慮したり、そうした課題に取り組む事業者を応援しながら消費活動を行うこと)の考え方を持つようになることが最善であり、それに伴って後者の解決も見込めるのではないか、と和田さまは考えておられます。

最後に、今回の講演を受講した私の感想です。今回、マグロアラートなど実際にマリンITを水産業に活用した例を知り、その貢献性や可能性を強く感じました。このマリンITが普及することにより、水産業者の負担の削減や漁獲効率の向上、水産資源の保護がますます発展することを期待しています。また、講演の最後に「みんなで育てるスマート水産業」というフレーズを和田さまが提唱されていましたが、この考え方に大変共感しました。私も水産業がさらに発展するためには、水産関係者だけでなくその他異分野との連携、および消費者である国民全員の協力が必要不可欠であると考えており、私の考え方がまさにこのフレーズで表現されていると感じました。私自身、このスマート水産業の開発に携われるように学習を続けるとともに、1人の消費者として今回学んだエシカル消費の考え方を大切にした消費活動を心掛けたいと考えています。

この記事を書いたライター
神戸大学 大学院理学研究科 生物学専攻 M2