第1回目のサイエンスカフェ神戸では、神戸大学大学院人間発達環境学研究科にて『環境DNA等を用いた生物の分布、行動、生理の研究』に取り組んでおられる源利文先生に「環境DNAで解き明かす水の中の生物多様性」というテーマで講演していただきました。
まずは、環境DNAとは何者なのかについてお話していただきました。資源管理が重要視される現代において、生物の資源量を正確に把握することが求められています。従来のモニタリング方法では、時間・労働コストが大きい、結果のばらつきが大きい、生態系へのダメージが大きいといった問題点が存在していました。これら問題点を解消しつつ、迅速で正確なモニタリングを可能にしたのが環境DNAを利用した手法です。環境DNAとは水や土壌、大気といった環境の中に存在する生物由来のDNAの総称のことを言います。この環境DNAを採取・解析することによって、その採取環境に、1.特定の生物種が存在するか、2.どのような種類の生物が存在するか、3.過去の生物相(生物の種類組成)がどうであったか、等を推測することが可能となっています。源先生は特に水から環境DNAを採取して解析する方法を開発された第一人者であり、現在その方法が世界中で活用されているとのことです。
続いて、その環境DNAの活用について、3つ例を挙げてご説明していただきました。1つ目は「オオサンショウウオの生息域の推測」です。西日本を中心に各河川の水から環境DNAを採取し、解析を行ったところ、多数の河川でオオサンショウウオの存在が検出され、さらにそのデータに基づいて生息マップを作成することができたとのことです。数年で作成されたこのマップが、過去数十年のデータを基に作製された生息マップとほぼ一致していたことから、環境DNAを使用するメリットを示すことができた良い結果になったと仰っていました。2つ目は「環境メタバーコーディング」です。とある場所の水から採取した環境DNAに対して“MiFish法”という解析手法を用いることで、その水に含まれる多種の魚類を網羅的に検出できる、つまり、その場所にどんな魚種が生息するかを明らかにできるようになったとのことです。実際に、美ら海水族館の水槽にて性能検証を行ったところ、なんと93.3%もの魚種を検出できたと仰っていました。現状、1万種ほどの魚類を検出可能であり、今後さらに増えていくはずであるとのことなので、いつか全魚種を検出できる日が来ることが楽しみです。3つ目は「過去の水産資源量変動の推定」です。水産資源量は漁獲量あるいは水底に堆積したウロコの量に基づいて算出することができ、各年のデータを比較することでその変動を見ています。しかし、漁獲量の記録が始まった以前の年やウロコが堆積しない魚種の漁獲量は算出することができず、よって過去の水産資源量の変動が不明な種が多い現状にありました。そこで、環境DNAの解析技術を活用し、堆積物中の環境DNAを解析することで、これまでは不明だった過去の水産資源量の変動を追跡できるようになったとのことです。実際に、これまでウロコが堆積しないため不明だったアジの資源量変動や、漁獲量ベースのデータと同様にイワシの資源量が周期的に増減すること等を検出できたと仰っていました。
最後に、今回の講演を受講した私の感想です。今回、源先生の講演を聞き、環境DNAを用いた解析技術について、よく知られている「魚種を網羅的に検出できる」ことだけでも十分素晴らしい技術であると思っていたのですが、さらに分布を推測したり過去を見たり等が可能であると学び、そのポテンシャルの高さについて知ることができました。この他にも資源量の推測等も可能にしたいとのことでしたが、これが可能になれば水産資源量を迅速かつ正確かつ簡便にモニタリングでき、よりリアルタイムな資源管理を行うことができるようになると考えられるため、今後の発展に期待しております。過去に非常識とされていたが、今や世界中で注目される存在となった環境DNAを発見するに至った「常識に囚われすぎないことの必要性」を胸に刻み、今後の活動に取り組んでいきたいです。最後になりますが、またいつか、ぜひ“神戸の海を環境DNAで一斉調査”なんて企画をやってみたいですね。あの魚が!?なんてことが起これば面白そうです。